全ては一頭の名牝が日米のターフを駆け抜けたときから始まった。
無敗でオークスを制し、日本競馬に「強さと気高さ」を刻み込んだその存在は、引退後、繁殖牝馬として真の伝説を紡ぎ始めた。そして2025年、その血が日本競馬の中心で脈打っていることを、私たちははっきりと実感する年となった。
2025年の種牡馬リーディング、とりわけ2歳リーディングは、まさにシーザリオ一族のためにある舞台だった。最後まで順位がもつれ込む激戦の末、1位に輝いたのはエピファネイア。2位にはサートゥルナーリア、そして9位にリオンディーズ。兄弟3頭がトップ10内に名を連ねる光景は、単なる数字以上の意味を持っている。それは、一代で終わらない「血の力」が、確実に次世代へ広がっている証明だった。
エピファネイア産駒からはアランカールが現れ、堂々と世代の中心へと名乗りを上げた。父譲りのスケール感と、シーザリオ一族特有の精神的な強さを感じさせる走りは、クラシックを意識させるに十分な内容だった。この世代は良血が集まった黄金世代であり、アランカール以外にも良血の期待馬が目白押し。さらにエピファネイアの特徴である予想を覆す大スケールの活躍馬も今後現れるかもしれない。
一方、サートゥルナーリア産駒のカヴァレリッツォは、完成度の高さとレースセンスで存在感を放ち、2歳戦からクラシック戦線へと直結する父の特徴をそのまま体現するかのような活躍を見せている。初年度よりも戦績が落ちやすい2世代目で、それ以外の産駒も初年度を上回る活躍を見せており、ホープフルSで人気になったアンドゥーリルやジャスティンビスタ、フェスティバルヒルなど来年も活躍を期待したい馬が多い。相当なポテンシャルを期待されて種牡馬入りした本馬だが、2年目にしてその期待を上回る成績を残し始めている。
そしてリオンディーズ産駒のクレパスキュラーもまた、鋭さと持続力を兼ね備えた走りで、決して兄たちに見劣りしない可能性を示した。リオンディーズは日高のブリーダーズSSで種牡馬入りし、種付け料100万と決して恵まれた環境でのスタートではなかったが、実績を積み上げ2026年の種付け料は500万と日高のトップサイヤーとなっている。こちらもアスクエジンバラなど他にも期待の産駒が複数いる。
この兄弟リーディング争いが胸を打つのは、単に「強い産駒が多い」からではない。同じ母を持ちながら、それぞれが異なる個性と進化の形を見せ、異なる角度から日本競馬を支えている点にこそ、深い感動がある。スケールで魅せるエピファネイア、完成度で勝負するサートゥルナーリア、爆発力と闘争心を秘めたリオンディーズ。シーザリオの血は、決して一つの型に収まらず、時代に応じて姿を変えながら広がっている。
その広がりは、2歳戦だけにとどまらない。総合リーディングに目を向ければ、エピファネイアが5位、リオンディーズが6位、そしてサートゥルナーリアも、わずか2世代で13位にランクイン。ここでも3頭が揃って上位に名を連ねる。種牡馬としての成熟度や世代数の違いを考えれば、この結果がいかに異例であるかは明らかだ。
中でも象徴的なのが、有馬記念を制したミュージアムマイルの存在だ。リオンディーズ産駒として、スピード血統の枠を超え、冬の中山で頂点に立ったその走りは、「この血は短距離でもマイルでも終わらない」という強烈なメッセージだった。また、ダノンデサイルをはじめとする実績馬たちも健在で、来年のGⅠ戦線において、シーザリオ一族の名を見ない週を探す方が難しくなるだろう。
こうして見渡すと、2025年は「完成」ではなく、「拡張」の年だったと言える。シーザリオという一点から始まった物語は、今や枝葉を広げ、世代を超え、距離を超え、競馬場のあらゆる舞台へと浸透している。そして2026年、その勢いはさらに増していくはずだ。クラシック戦線では2歳時から名を挙げた期待馬たちが主役候補となり、古馬戦線では円熟味を増した実力馬たちが覇を競う。その中心には、間違いなくシーザリオ一族の血が流れている。
2026年はエピファネイアの仔のエフフォーリア産駒もデビューし、ルペルカーリアもレックススタッドで種牡馬生活を始める。ミュージアムマイルやダノンデサイルもいずれ種牡馬入りする可能性が高く、シーザリオ一族がさらに日本競馬を席巻する未来は確実に近づいている。
一頭の名牝が残したものは、勝利の記録だけではなかった。
それは「血が物語を紡ぎ続ける」という、競馬そのものの美しさである。
2025年に広がったこの血の輪は、2026年、さらに大きな感動となって私たちの前に現れるだろう。



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